
朝の空気が、少しだけ冷たくなってきました。
吐く息が白くなるにはまだ早いけれど、夏の名残はもう遠く、畑のまわりには秋の匂いがしています。
青森県五戸町、倉石。
山の気配が近く、遠くまで見渡せる畑の向こうには、少しずつ色を変え始めた木々。
風が吹くと、葉がかすかに擦れ合う音がします。
その中に、真っ赤なりんごが見えます。
紅玉です。
木の葉の緑のあいだから、小さな赤がぽつり、ぽつり。
近づいてみると、思っていたよりも深い赤。
つるりとした表面に秋の光が当たり、手のひらにのせると、ひんやりとした重さが伝わってきます。
かじると、最初にやってくるのは酸味。
きゅっとした甘酸っぱさとりんごの香り。
甘いだけのりんごとは違う、輪郭のある味。
少し懐かしくて、でも今食べると新しい。
紅玉というりんごには、そんな不思議な魅力があります。
倉石の畑山農園では、この紅玉を今もつくり続けています。
化学肥料に頼らず、土と雨と太陽、そして季節の力を借りながら育てるりんご。
畑に立っていると、人が育てているというよりも、人もまた、この土地の季節の中にいるのだと思えてきます。
雨の日も、風の強い日もあり、思うようにいかない年もある。
それでも春が来れば花が咲き、夏を越え、秋には実が赤くなる。
毎年同じように見えて、同じ秋は一度もありません。
紅玉を見ていると、そんな時間まで実の中に閉じ込められているようです。
甘いりんごが増え、紅玉をつくる農家は少なくなりました。
けれど、酸っぱいからこそ残る味があります。
薄く切って、そのまま。バターを落として、ゆっくり焼く。
砂糖と煮て、鍋から立ち上る甘酸っぱい香りを楽しむ。
アップルパイにすれば、焼けたりんごの香りが部屋いっぱいに広がります。
外が少し寒い日に、温かい飲みものを用意して、焼きたてをひと切れ。
窓の外には、秋から冬へ向かう景色。
そんな時間が、紅玉にはよく似合います。
旬のものを食べるというのは、その土地の季節を少し分けてもらうことなのかもしれません。
箱を開けた瞬間、真っ赤な紅玉の向こうに、倉石の冷たい風や、木々のざわめきや、秋の光を感じてもらえたら。
まだ訪れたことのない場所なのに、なぜか少し懐かしい。
いつか、この風景の中に立ってみたい。
そんなふうに思ってもらえたら、旬花柊萄はうれしいのです。
青森の秋は、静かです。
けれど、その静けさの中には、土の匂いや風の音、人の営みがあります。
紅玉をひとつ手に取って、少しだけ、その時間を覗いてみてください。
2026-09-17 15:38:43
季節の便り
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maman
/ 2026-10-06 13:32:06